赤ちゃん育児と産後のケアに特化し、地域に密着した活動を14年続けてこられたさら助産院院長の直井亜紀先生に教えていただく育児コラム第2弾です。
はじめに
「虫歯のない子に育てたい」これはすべての親の願いですよね。
わたし自身、ずっと虫歯に悩み続けてきました。口の中にはセラミックや金歯が仲よく並んでいます。
元気な歯に戻すことは不可能だからこそ、同じような思いをしてほしくない。
そう願い、赤ちゃんの時期から始められる虫歯予防に関心を持ち学んでいます。
育児中のママ・パパにぜひ知ってほしい、赤ちゃん期からの虫歯予防ポイントをお伝えします。
「虫歯予防=歯磨き」ではありません
「虫歯予防といえば歯磨き」「歯磨きをしないと虫歯になる」そのような考え方が浸透しています。しかし実際は、虫歯予防と歯磨きは全く関係ないんです。
え?そんなはずはない、何をバカなことを!と思われるかもしれませんが、本当に虫歯と歯磨きは関係ありません。
これはまるで、「入浴するのは皮膚病予防目的ではない」ことと同じ。
入浴するのは「皮膚病を予防するため」ではないですよね。
入浴の目的は、「リフレッシュ」「清潔」「臭くないように」であって、皮膚病予防ではないはずです。歯磨きもこれと同じ。
清潔を保つエチケットのためであって、虫歯予防目的にすることではないんですね。
●虫歯になる原因は食事と飲み物
では、お口の中が常に汚れていても虫歯にならないのかというと、そういうことではありません。虫歯になる原因には、何を食べて何を飲むのかが大きく影響しています。
とくに要注意なのは、歯にベタッとくっつくお菓子(キャラメル、ビスケット、チョコレートなど)。
歯にベタッとくっつくお菓子を与え続ければ、お口の中は虫歯になる環境が整ってしまいます。
とくに0~1歳には、飲み物をお茶と水に徹底することができる時期です。
甘い飲み物を教えないようにしたいですね。
そして、ダラダラ食べをさせずに、食べる時間を決める。
さらに唾液が増えるように、よく噛む食べ物を与えるといいでしょう。
逆に言えば、米やイモ類などを食べたあとに歯磨きをしなくても、虫歯になるリスクは少ないのです。
つまり、歯磨きをする以上に大事なのは、与える食べ物や飲み物なんですね。
キスをすると虫歯菌がうつる?
「赤ちゃんにキスしたら虫歯菌がうつる」と聞いたことがある方が多いのではないでしょうか。「赤ちゃんにキスをしてはいけない」という教え(?)は広く浸透しているようです。
赤ちゃんのお肌はすべすべで、ついキスしたくなりますよね。
見ず知らずの赤ちゃんのお肌でもキスしたい衝動に駆られるというのに、わが子のかわいいお肌にキスできないなんて、ああもったいない!
では、本当にキスはやめたほうがいいのでしょうか。
●虫歯菌をうつさないより大事なこともある
もしも「人生において最も大事なことは虫歯菌をうつさないこと」なのであれば、キスをしない育児をおすすめします。
ただその場合は、日常生活で常にマスクが必要です。
添い寝もマスク、話しかけるときもマスク、食事中の会話はもってのほかだし、笑いかけてもいけません。徹底的に飛沫が飛ばないような生活をすれば、虫歯菌がうつるリスクは最小限に抑えられます。
しかし、これは現実的ではありません。
食事中に会話がなく、笑わない家族。マスクをはずした顔を知らない家族。うかつに話しかけることもできない生活は非現実的。
虫歯予防も大切だけれど、笑いあって心を育む育児がもっと大切。
おしゃべりして笑いあっていたら、飛沫は飛び交っています。
キスだけ制限するのはあまり意味がないのですから、どうぞキスしてくださいね。
●お口の中にはいい菌もいる
さらに、お口の中にいるのは虫歯菌だけではありません。
菌と聞くと悪いものを想像しますが、私たちが生きていくうえで「よい働きをする菌」はたくさん存在します。たとえば、乳酸菌、納豆菌もいい菌です。
お口の中に常在する菌は500~700種類と言われていますが、その中にはいい菌もたくさんいます。この「いい菌」はどんどんうつしてあげたい菌なのです。
●家族のお口の環境を整えておくことが大事
キスしてもOK!ではあるものの、気を付けたいことがあります。
それは「家族のお口の中をよい環境にしておく」ということ。
もし虫歯があればすぐに治療し、虫歯がなくても歯科医でのクリーニングを定期的に受けていること。キシリトールガムを噛み続けるのも効果的です。
このように「家族のお口の中の虫歯菌を減らしておく」ことはとても重要です。
もしも進行中の虫歯がある場合は、治療を終えるまでの期間はキスを控えたほうがよいでしょうね。
歯ブラシを嫌がらない子に
「虫歯予防に歯磨きは関係ない」とはいっても、歯磨きをする習慣は大切です。
よく「歯ブラシを嫌がって歯磨きさせてくれない」という相談をよく受けますが、これには子どもなりの理由があるのです。
●人見知りの時期は歯ブラシにびっくりすることも
歯が生える時期と人見知りの時期はほぼ同じ。
人見知りが始まる生後7~9か月ごろになると、初めての体験にびっくりすることが増えます。
たとえば、初めて食べるもの、初めてのお出かけ先、初めて会う人にびっくりしますよね。
このように、人見知りの時期には「初めての歯ブラシ」体験にびっくりしてしまうことがよくあります。
●お口の中を触れる機会を増やす
そのため、「お口の中に何かが入ることは怖くない」を体験させることをおすすめします。これは、0歳児に限らず、幼児になってからでも同じ。
たとえば、お顔をマッサージした流れでお口の中もマッサージする、変顔をして口の中に指を入れる…といった遊びです。
このような遊びにより唾液が増えることも虫歯予防につながります。
ママやパパが楽しそうにしていることで、お口に何か入るのは怖いことではないと認識づけたいですね。もちろん、手を洗ってからするのは大原則です。
●家族で歯磨きごっこのすすめ
歯磨き嫌いな子にしないための工夫として、家族での歯磨きごっこもおすすめ。
これは、パパがママの太ももに頭を載せて歯磨きを受ける、ママがパパにしてもらう…といった遊びです。
歯磨きごっこでは、大人も歯磨きされる側の体験ができます。そして「指が当たって痛い」とか「唾がたまって気持ち悪い」など、「なぜイヤがるのか」に気付くことができます。
また、家族が楽しそうに遊んでいることで、「ぼく(わたし)も仲間に入りたい!」と、子どもが自ら歯磨きしてほしくなる雰囲気を作ってあげたいですね。
まとめ
「目からうろこの虫歯予防」というテーマで、「歯磨きを毎日頑張ることはたいして重要ではありません」「キスをしてもいいですよ」、ただ「甘い食べ物や飲み物を与えるのは最小限にしてね」についてまとめました。
虫歯予防のために「〇〇しなくてはいけない」内容だろうと思っていた方には、拍子抜けする内容だったかもしれませんね。
パパやママのストレスが少なく、家族で楽しく虫歯予防となりますようにと願っています。
筆者紹介
- 直井亜紀(助産師・べビケアセラピスト さら助産院院長)
- 「頑張る育児から楽しい育児へ」
ラクチンな姿勢の母乳育児・うたうベビマ・赤ちゃんが泣きやむ抱っこやおんぶ・産後の家庭訪問などなど、「ママの笑顔を増やしたい!」をモットーに活動中。今までに関わった人数は約50,000人。新生児から思春期の性教育まで、長い線で関わり続ける活動をしている。今までの活動を通して、東京新聞・読売新聞・朝日新聞・日経新聞・NHK・Yahooニュースなど、マスコミ掲載多数あり。内閣府特命担当大臣表彰「子供と家族若者応援団表彰」・母子保健奨励賞・内閣府家族の日優秀賞など受賞。著書は「思春期のわが子へ伝えたい性のこと」「わが子に伝えたいお母さんのための性教育入門」など。
本質行動学エッセンシャルマネジメントスクールフェロー。合気道初段。 - さら助産院HPはこちら