日々赤ちゃん育児に奮闘中の保護者のみなさま、いつも本当におつかれさまです。
ただ一日を無事に過ごすだけでも大変なのに、なんだか身体が熱い!発熱では!?となった際の焦りは相当なものがありますよね。
今回は、365日年中無休「アクアキッズクリニック 市川院」で日々小児科の診療にあたっている黒沢院長に“赤ちゃんの熱の特徴と体温計の選び方”について教えていただきました。
はじめに
大人が感じる「身体が熱い」という感覚(医療者界隈ではこれを「体熱感」と呼んでいます)、実はあまり正確ではないようです。とある研究では「お母さんが『熱がありそう』と感じた子どものうち、実際に37.8℃を超えていたのは39%に過ぎなかった」という結果が出ています。(ちなみに「熱はなさそう」と感じた時に、本当に熱がなかった割合は95%だったそう。こちらは随分と正確ですね!)
そうなれば、やはり頼るべきは体温計!となるわけですが、世の中には実に様々な種類の体温計が存在します。
はじめてのお子様で、どれを買えばいいかわからない方、いろいろなタイプを試した方にも、ぜひ知って欲しい内容を小児科医の観点からまとめました。
体温計そのものの話に入る前に「小児科医だからこそできるお熱の話」もさせていただきましょう。
赤ちゃんにとっての平熱〜何℃になったら発熱?〜
みなさん、ご自分の平熱は把握されていますか?自分はいつも36℃台後半で高めだという方や、あるいはいつも35℃台で低めだという方など、様々おられるかと思います。それに対し、乳幼児の平熱は総じて大人より高めとなっています。

小児科医の感覚としても、37.5℃までは平熱と捉えて診療しています。保護者とお話しするときも37℃台後半は微熱、38℃以上になったら発熱、と表現していることが多いです。ですので、赤ちゃんの体温を計っていて「いつ計っても37℃ちょっとある…」というのは正常なんです。
また、「何℃あったら受診したほうがいいですか?」という質問も良くいただきます。「熱以外の症状がないのであれば、38℃以上の発熱は翌日に、37℃台後半の微熱は数日続く場合に受診をおすすめします」とお答えしていることが多いです。
とはいえ、病院に連れてきて医師・保護者で一緒に観察した結果何かが見つかることもありますから、ご心配であれば早めに受診していただいて問題ありません!
熱型(ねっけい)を確認してみよう〜熱のカタチが診断のヒントに!〜
何℃からが発熱?という勉強をしたところで、その情報が実際どのように診療で活用されているのか、小児科医の頭の中を少しだけ覗いてみましょう。
例えば、
- ①昨夜寝る時に38℃の発熱があったが、それが朝起きたら40℃にまで上がっていた。
- ②5日前から発熱が続いている。ただし38℃台までで、一度も39℃以上にはなっていない。
という2人の患者さんがいた場合、小児科医が「悪い病気の可能性が高いな」という印象を受けるのはどちらでしょうか・・・?
正解は・・・②です!
①のように「40℃の高熱が出るほうが怖い」と思われた方もいるかもしれませんが、少なくとも予防接種が普及して髄膜炎などが激減した現代の子どもでは「高熱⇒重い病気」はほとんど成り立ちません。
40℃出ていたとしても、原因のほとんどは風邪、インフルエンザ、ヘルパンギーナなど子どもによくある病気で、特別な治療をせずとも3~4日のうちに自然に解熱することが期待できます。
一方で、②のように38℃台まででも、発熱が長く続いている方が小児科医は警戒します。風邪をこじらせて肺炎になっていたり、川崎病などの特殊な治療を行わないといけない病気にかかっていたりする可能性を考えて、①の子よりも多くの検査をしたり、お薬を出したりすることが想定されます。
そして発熱の長さに加えて、熱型(=熱のカタチ)も小児科医はチェックします。教科書的には、以下のような熱型が定義されています。

このうち小児科医としてよく遭遇するのは以下の2つです。
- ①熱が張り付いたようになる稽留熱(けいりゅうねつ)
- ②熱がぐらぐらと上下する弛張熱(しちょうねつ)
さて、今度はどちらが「悪い病気の可能性が高い」と小児科医は考えるでしょうか?
正解は①です!これは想像通りかもしれませんね。
稽留熱を起こしやすい病気には先程も挙げた肺炎や川崎病が含まれ、小児科医的には一段警戒レベルが上がります。
一方で弛張熱の場合はただ風邪が長引いているだけだったり、具体的な病名がつくものでもアデノウイルス感染症やマイコプラズマ感染症などであったりと、自然治癒が期待できるパターンが比較的多くなります。
とはいえ、熱型はあくまで診断の一助にすぎません。発熱が続いたら、どんな熱のカタチでも受診はしてくださいね。
赤ちゃん用体温計のタイプ〜その特徴と選び方〜
さて、本題です。最近は様々なタイプの体温計が発売されています。それぞれの特徴を把握し、発熱の知識に合わせて、皆さんの生活や目的に合った体温計を選んでみましょう。
①腋窩(えきか)式体温計
体温計といえばこのタイプを思い浮かべる方も多いでしょう。
脇の下は普段空気にさらされないため、簡単に測れるタイプでは最も真の体温に近い測定値が得られます。ただ、しばらくの間脇に挟んだままにしておく必要があるため、不機嫌な状態だと測定がままならないこともしばしば…測定時間がなるべく短いものを選ぶと便利ですね。
- メリット:(簡単に測れるタイプの中で)最も真の体温に近い測定値が得られる
- デメリット:動き回る、じっとしていない赤ちゃんは測定しにくい
②非接触式体温計
新型コロナウイルス感染症のパンデミックに伴い、一時期はこれを見ない日はない、というくらい色々な場所に導入されていましたね。もちろん子ども用の体温計としても優秀で、身体に触れないため衛生的に測れること、寝ている間に起こさずに測れることなどがメリットとして挙げられます。
測定時間も一瞬なので、いつでもさっと測れるのがうれしいですね。ただし外気の影響を受けやすいため、外から帰ってきた直後の体温測定には向きません。
- メリット:衛生的、寝ている時も起こさず測れる
- デメリット:外気の影響を受けやすい、帰宅直後の体温測定には向かない
③耳式体温計
①と②の中間に位置すると言っていいかもしれません。比較的外気にさらされにくい耳の中の
温度を、わずかな接触だけですぐに測定することができます。動き回る赤ちゃんや寝ている人の体温も正確に測定できますので、とても便利です。
- メリット:動き回る赤ちゃんや寝ている人でも計測しやすい
- デメリット:(腋窩(えきか)式と比べて)外気の影響をうける場合がある
またどのタイプの製品にも言えることですが、記録機能があるとなお良いですね。体温の記録から熱型(勉強しましたね!)が分かれば、小児科に受診していただいた際の貴重な情報となります。実際の診療でもたまに熱型表を持ってきてくれる保護者の方がおられるのですが、この人…デキる…!!と内心思っています!
まとめ
いかがでしたでしょうか?お子さまの発熱は得てして突然起こるものなので、落ち着いて対処できるよう頼れる体温計を手元に置いておきつつ、しっかり記録を取ったうえで小児科を受診していただければと思います!
プロフィール
- 黒沢拓未
- アクアキッズクリニック市川院 院長
- 医療法人社団aQua 理事
- 日本小児科学会 専門医
- 慶應義塾大学医学部を卒業後、同大学病院の初期臨床研修を経て同大学医学部の小児科学教室へ入局。
関東各所の関連病院での専攻医研修を経たのちに大学病院へ復帰、血液・腫瘍を専門として小児の化学療法・造血幹細胞移植に携わる。
2024年よりアクアキッズクリニック(東京都江戸川区)の常勤医師となり、同年11月のアクアキッズクリニック市川院(千葉県市川市)の開院に合わせ院長に就任。
365日年中無休での診療を掲げ、平日休日問わず子どもの診療・健診・予防接種を実施。病児保育室も併設し、地域に寄り添ったクリニックを目指す。 - アクアキッズクリニック市川院ホームページ