エジソンママが聞いてみた
プロが教える食べたくなるコツ

作業療法士が教える
「焦らない気持ちの大切さ」

作業療法士 丁子 雄希 さん

新潟リハビリテーション大学准教授。作業療法士、公認心理師。3児の父。
児童に対するトレーニング箸の開発や脳卒中患者の利き手交換訓練や焦点を当てた研究を行う。石川県病院協会優秀研究賞を受賞の他、著書や講演を通じて広く発信している。

作業療法士_丁子雄希さん
手づかみたべは必要
感覚を養う大切な過程

お子様がスプーンやフォークの獲得過程のどの時期にあるかによって支援方法は変わってきます。例えば、1歳6ヶ月〜2歳頃では、スプーンの向きを調整しながら口へ運ぶ感覚を学んでいく必要があります。これは、口に運ぶ過程で、他方の手で食べ物をスプーンからこぼさないように援助することで、スプーンの先端が直線的に口に向かうことができます。また、食べ物が少なくなってくると手づかみで食べやすいですが、そんな時は手づかみ食べで構いません。

スプーンやフォークは
いつからつかえる?

スプーン

お子様がスプーンを使い出すのは1歳前後。3歳頃になるとかなり上手に操作ができるようになります。

ごはんを食べる赤ちゃん

フォーク

フォークが使いこなせるようになるのは4歳頃。これは、すくう動作よりも刺す動作の方が、力加減や食べ物の重心を捉える点で難しいとされているため、スプーンの操作よりも獲得が遅れると言われています。

親子の手

月齢ごとのステップアップ

  • 離乳食中期(7〜8ヶ月頃)

    食べ物に対する「おいしい」という気持ちが芽生え始める
  • 離乳食完了期(12ヶ月頃)

    親の真似をしてスプーンを使いたがったり、コップで飲もうとしたりする
  • 1歳〜1歳6ヶ月頃

    スプーンの向きに無頓着のまま使用(回内握り・回外握り)
  • 1歳6ヶ月〜2歳頃

    左右両方で使用 ボール部を上にした回内握りが多くなる
  • 2歳前後

    フォークで食べ物を指すことができる
  • 2歳〜2歳6ヶ月頃

    スプーンを親指・人差し指・中指を中心に回内位で握る
    手首の動きも伴って操作できる
  • 2歳6ヶ月頃〜3歳頃

    スプーンを利き手の親指・人差し指・中指で持つ鉛筆握りを始める
  • 3歳頃~

    スプーンやフォークを使えるようになる
回外握り(下手持ち)、回内握り(上手持ち)

声掛けはしないで!
興味や関心など意欲を高める

スプーン操作を学習しているこの時期では、1人で食べた方が食事に集中しやすいとも言われているので、持ち方を無理に矯正したり、食べこぼしを注意したりしないようにしてください。
お子様にとっての食事は、食事への興味を高めたり、美味しいものを食べたりしたときの満足感や家族との時間を楽しむための大切な時間です。そのため、注意し過ぎることで食事自体が辛い経験となり、逆効果になることがあります。お子様の自ら食べようとする自発性を優先して、食べこぼしの中で学んでいきましょう。

フォークでごはんを食べる赤ちゃん

一方、4歳以降になっても上手くスプーンやフォークが使えない場合があります。これは、スプーンやフォークの操作性以外にも、お子様の食事の姿勢、感覚、意欲などの複雑な要素が影響しています。もしお子様の食事動作に心配がある方は、お気軽に医療機関にご相談ください。

ポイントはサイズの適正
適切な食器の選び方

お子様が食事をする際は、唇を使ってスプーンから食べものを取り込む(捕食)動きの獲得が必要となります。そのためスプーンの大きさや深さを適切にすると捕食の動きを獲得しやすいです。一般的に、お子様にとって最適なスプーンの大きさは、歯列の内側の幅(口幅の約2/3)と言われています。

口内とスプーンの説明図

誰が何のために使用するのか

スプーンは、お子様が自力で食べるのか、親が食べさせるのかによって、選定基準が異なってきます。例えば、離乳食中において親がスプーンを使用する際は、スプーンの大きさを小さくし、ボール部は平らか浅めのものを選定します。
これはスプーンを大きくすると一口量が大きくなり誤嚥につながったり、深めのものだと食べものを口に運んだ後にボール部に食物が残ったりしてしまうからです。

ごはんを食べる赤ちゃん1

成長に合わせた使用
ポイントは「持ちやすさ」

また、スプーンを噛んでしまうことが多いので、シリコンタイプや樹脂コーティングがしてあるものがおすすめです。一方で、1歳6ヶ月以降のお子様が自力で食べるためには、「自分でできた」という体験を促すために、ややボール部を深くしてすくいやすいものを選んでみましょう.発達段階に応じて、スプーンやフォークの持ち方が変化していくので、どの持ち方でも握りやすいグリップを選定すると使いやすいです.

ごはんを食べる赤ちゃん2

作業療法士が教える
「子育て上手は笑み上手」

育児の悩みを笑顔に

1児の息子の母であり、リハビリテーション病院で作業療法士として勤務する武井安奏と申します。子育ては息子にとっても母親にとっても新しいこと、経験したことがない事への挑戦ですよね。
新しいことへの挑戦は不安がよぎり、悩んでしまうことがしばしばあります。みなさんが抱える不安を少しでも解消する為に、作業療法士という仕事を通して患者さんから学んだことを紹介させて頂きます。

作業療法士_武井安奏さん
楽しい時間に変えてみる

ようやく手づかみで「ご飯を集中して食べてくれた」そんな矢先、
保育園から「家庭でスプーン・フォークの練習をしてください」とお便りが届きました。
「仕事や家事を行いながらできるのかな?」といった不安はありましたが、作業療法士を通して学んだ事を活かし、息子と「新しいことを覚える楽しい時間」に変えてみようと思いました。

新しいことへの挑戦はドーパミンから

ドーパミンとは

新しいことへの挑戦にはドーパミンは欠かせません。脳の側坐核から分泌されるドーパミンはやる気や幸福感を得られる神経伝達物質として有名ですが、集中力を高めたり、気持ちをポジティブにしてくれたりと感情や記憶、理解力の向上など人格形成においても非常に重要な役割を果たします。
そのドーパミンの放出には、脳の報酬系回路を活性化する必要があります。それは細かな目標設定とママの笑顔。目標達成には子供の満足度が大切なのです。

脳の図

目標設定のポイント

目標設定で意識した事は、最初から全てをできるようにするのではなく、今日は1口だけ、明日は2口と一歩づつ進んでいく事です。そして1日目のスプーンで1口を達成できたら笑顔で「出来たねぇ!すごいねぇ」と心からの全力笑顔で褒める。そしてハイタッチとハグ。「明日も頑張ってみようか」など、日々行なっていきます。
褒めた後の息子の笑顔が愛おしく、毎日息子と挑戦する時間が楽しみへと変わっていきました。

達成した子供

ドーパミンからオキシトシンへ
育む親子の愛情。

「新しいことへの挑戦」はドーパミンの分泌が必須ですが、ドーパミンの放出には報酬系回路が必要です。ドーパミンは脳が興奮している状態なので、「できなかった」を「できた」にするにはその他の神経伝達物質が鍵を握ります。それがオキシトシンとセロトニンです。

ドーパミンの分泌

オキシトシンでリラックス

オキシトシンは愛情ホルモンといわれスキンシップで放出されます。
オキシトシンは呼吸が深くなり、血圧が安定するなどの役割があるように精神的にリラックスした状態になります。
その為には家事の合間を見つけては保育園から帰ってきた息子とスキンシップの時間を大切にしました。空腹もストレスとなるので食事のタイミングで息子の気持ちが安定するように自分の行動も計画していきました。

赤ちゃん

セロトニンでやる気 UP

オキシトシンが分泌されるとセロトニン神経が活性化されポジティブな気持ち、やる気へとつながります。ドーパミンのやる気はどちらかというとギラギラしたやる気でセロトニンのやる気は落ちついたやる気といったところです。
ドーパミンで頑張っていた息子からセロトニンが出て食事に集中してスプーンを使うのが当たり前になっていった時、私も息子への愛情が溢れ、オキシトシンで満たされセロトニンが放出されたイメージです。

参考・引用文献 標準生理学第9版 医学書院

ママ

職場の経験を子育てに

私が作業療法士として働いている職場はリハビリテーション病院です。怪我やご病気になられていた方が長期間にわたってリハビリテーションに取り組み、歩けるようになられたり、元の生活へ戻っていく為に毎日訓練される場所です。
辛いご病気やお怪我を乗り越えて1つ1つ目標を達成されるサポートをする為には上記に挙げた脳内神経伝達物質を意識した言葉掛けやジェスチャー、表情が大切です。
その経験が今回このように子育てに活かせたということは、これまで作業療法士の私に関わってくださった多くの患者様に感謝の気持ちでいっぱいです。
このような素晴らしい仕事に出会えて、そして家庭でも息子に沢山の愛情をもらえて私はとても幸せです。

赤ちゃん

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